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オペラ「魔笛」の見どころ、聴きどころ

 豊橘市民オペラ実行委員 望月志郎 オペラ「魔笛」は、悪人に誘拐された王女を旅の王子が助けに行く、という設定で始まりますが、実は悪人と思われた男が徳の高い僧侶で、王子に救出を依頼した夜の女王は復讐のために彼を利用した悪女であった、という具合に展開します。

 台本を書いたエマニュエル・シカネーダーは初演間近になって類似の作品に気づき、急遽、単なる救出劇から善玉と悪玉が入れかわる物語に変えたと伝えられており、これが原因で話の展開には無理が生じたようです。「シカネーダーのことだ、しかたねーだー」とモーツァルトが妥協したせいか、物語はいまひとつ不自然で、評論家の中には「魔笛は音楽だけ聴けばよい」という人もいます。しかし、不自然なところがあるからこそ、逆に様々な解釈が成り立つのだともいえます。現にこのオペラは多様な解釈による演出で、数限りなく上演されてきました。今回の舞台も、皆さまがそれぞれの解釈で「何か」を感じ取っていただければ幸いです。

 さて、このオペラには3という数字がしばしば登場します。これはモーツァルトが属していたフリーメイソンという結社では、3が重要視されたそうで、3人の侍女、3人の童子(今回は76人ですが)、3つの扉などは、その影響であるといわれています。フリーメイソンについては、これまた諸説紛々です。謎に満ちたテンプル騎士団との関係、モーツァルト暗殺の黒幕説(入会の儀式を魔笛の中で描いてしまったため?) 、坂本竜馬もメンバーだった、等々。ミステリアスなフリーメイソンとの関連でご覧になるのも面白いかもしれません。ペリーメイスンではありませんので、お間違いなきよう。

 このオペラで対立軸となるのはザラストロの博愛と夜の女王の利己心ですが、この二人がオペラの中の一番低い音と高い音を歌っているのは、その象徴といえましょう。そのザラストロという名前はゾロアスター教から採ったようですが、合唱には「おおイシス、おおオシリス」とエジプト神話の神が登場し、火、水、土(沈黙)の試練などは、これに風を加えた4大元素論を連想させます。 モーツァルトらしい柔軟さでしょうか。これに第5の要素として「愛」を加えたというと、まるで映画「フィフスエレメント」ですが、タミーノとパミーナ、パパゲーノとパパゲーナ、彼らは愛の力で試練を乗り越えます。

 この先、彼らの愛の行方は…?そんな想像をしてみるのも「魔笛」の楽しみ方の一つではないでしょうか。